顔面神経麻痺
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顔面神経麻痺とは
顔面神経麻痺とは、顔を動かす神経が麻痺して顔が思ったように動かなかったり、表情がうまく作れなくなったりする病気です。多くの場合、顔の半分だけに起こり、突然発症します。年間で約5万人が発症しており、誰にでも起こりうる病気です。脳出血・脳梗塞・脳腫瘍などの中枢性の原因やウイルス感染・外傷・中耳炎などの末梢性の原因がありますが、ほとんどが末梢性によるもので、しかもその多くはウイルス感染が原因です。適切な治療を早期に行うことで、約80%の方が治癒しますが、残りの約20%の方では、麻痺が残り後遺症を起こす場合もあります。症状が現れたら、出来るだけ早く治療を開始することがとても大切です。
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顔面神経麻痺の症状
顔面神経麻痺では、顔の半分がうまく動かせなくなることが主な症状ですが、詳しく挙げると
- 眉が動かない、眉が下がる
- 眼が閉じられない
- まぶたが下がる
- 口が閉じられない
- 口角が下がる
- ほうれい線が無くなる
などの症状が見られます。
また、これらの症状に付随して、
- 視野が狭くなる
- 眼の乾燥・充血
- 口から水がこぼれる
- しゃべりにくい
といった状態を起こすこともあります。
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顔面神経麻痺の原因
顔面神経麻痺の原因は冒頭でもお伝えした通り、末梢性の原因がほとんどで、そのうちの約80%がウイルス感染によるものです。ウイルスの種類としては、単純ヘルペスウイルスと水痘・帯状疱疹ウイルス(水ぼうそうの原因ウイルス)があります。これらのウイルスが、初感染後に顔面神経の神経節の中で眠った状態にあったものが、ストレス・過労・加齢・長時間の紫外線暴露などで免疫力が低下することによって、ウイルスが再活性化して顔面神経に障害を起こして発症します。
ウイルスが顔面神経を障害するメカニズムを説明しますと、脳から出た顔面神経は耳の奥にある骨の中を通ってから顔の筋肉へ分布するため、再活性化したウイルスによって顔面神経が炎症を起こして腫れてくると、骨の中を通っている部分で神経が圧迫されるため、血流が悪くなり、神経の障害が発生します。●ベル麻痺
単純ヘルペスウイルスが再活性化することで発症する神経麻痺で、末梢性の顔面神経麻痺の約70%を占めています。後述するハント症候群と比べて、治りやすく予後の良いことが特徴です。
●ハント症候群
水痘・帯状疱疹ウイルスが再活性化することで、発症する神経麻痺で耳の痛みや耳の発赤・水疱様の発疹を伴うことが多く、難聴やめまいを起こすこともあります。末梢性の顔面神経麻痺の約10~15%を占め、重症化しやすく、ベル麻痺と比べて治りにくいことが特徴です。
その他にも、中耳炎や耳下腺腫瘍、顔面神経腫瘍などの腫瘍、側頭部の骨折などの外傷が末梢性の顔面神経麻痺の原因になることもあります。
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顔面神経麻痺の治療
原因の多くを占めるウイルス性の場合、顔面神経の炎症を取るためのステロイド薬とウイルスの活動を抑える抗ウイルス薬によって治療を開始しますが、発症から約1週間までは神経のダメージが進行していくため、麻痺の症状は悪化します。神経のダメージを最小限にするためにも、出来るだけ早く治療を始めることが大変重要です。
また、重症で予後が悪いことが予想される場合は、「顔面神経減荷術」という手術を行うこともあります。この手術は、顔面神経が通っている骨を削って、神経を骨から開放することで神経の圧迫を取って血流を改善し、神経の再生を促す目的で行われます。 -
後遺症について
治療が遅れたり、症状が重症な場合には、「顔のこわばり」や「病的共同運動」といった後遺症が起こることがあります。「病的共同運動」とは麻痺を起こした神経が回復するときに、まぶたを動かす神経と口を動かす神経が混線を起こしてしまって、「口を動かすときに目も閉じてしまう」などの異常な顔の動きが生じることを言います。これらの後遺症の予防と治療のために、顔のマッサージを早期からしっかり行うことや、回復期には顔面運動のリハビリテーションを適切に行うことが大切です。
ご注意していただきたいこと
顔面神経麻痺は、早期の治療開始によって神経のダメージを最小限に抑えることで、約80%の方は回復する病気ですが、治療が遅れると後遺症が起こる可能性が高まります。顔面神経麻痺の症状が出現したら、とにかく早く耳鼻咽喉科を受診するようにしてください。