補聴器を購入する前にVol.3|補聴器のフィッティングとは?
耳の病気|2026.06.18補聴器のフィッティング
前回のコラムでもお伝えしたように、補聴器はいきなり購入するものではなく、数か月間の試聴が大切で、そして、その試聴期間の間にご自身の耳と脳に合わせて、補聴器からの音の出力を調整していく「フィッティング」というプロセスが非常に重要になります。この試聴とフィッティングを行わずに購入してしまうと、補聴器は買ったけれど「音がうるさすぎて使えない」反対に「聞こえが全然良くならない」ということになってしまいます。
今回は、補聴器を快適なパートナーとして使いこなしていくために欠かせない、実際のフィッティングの進め方とコツについてお話します。
【コラム】補聴器を購入する前にVol.2|自分に合う補聴器の選び方
フィッティングって何をするの?
フィッティングとは、補聴器を使用した時の客観的な測定データと、実際にご本人が使用した時の聞こえの感じ方との両方のバランスをうまく取りながら、補聴器からの音の出方を少しずつ調整していく作業です。私たちの耳は一人ひとり聞こえにくい音の高さや大きさが違います。また、どれくらいの音の大きさで「うるさい」と感じるかの基準も人それぞれです。補聴器専門店の認定補聴器技能者の下で、聴力検査の結果を参考にしながら、
「この高さの音はもう少し強くしよう」
「食器が当たるような鋭い音は抑えよう」
など、一人ひとりそれぞれに合わせた音の聴こえを設定していきます。
なぜフィッティングは繰り返し行わないといけないの?
「一度設定すれば、ずっとそのまま補聴器は使えるようになるのでは?」と思われるかもしれません。しかし、フィッティングには通常、数か月の期間をかけて複数回の調整が必要です。その大きな理由は「脳が音に順応するには時間が必要」だからです。
なぜ脳が「音」に順応するには時間が必要なの?
難聴で聞こえない状態が長く続くと、脳は「静かな状態」に慣れてしまっています。その状態で補聴器を使い始めると、突然色々な音が脳に送り届けられるようになるため、脳は「うるさすぎる!」「雑音ばかり聞こえる!」と驚いて混乱状態になります。
しかしながら、脳には音に対しての順応力があるので、徐々に補聴器からの音に慣れて、少しずつ本来の聞こえていた時の脳の状態に戻っていきます。(これをいわゆる「脳の聞こえに対するリハビリ」と呼びます。)そのため、小さすぎる音量では脳のリハビリ効果が期待できないため、ある程度の大きさの音量からスタートして、脳が少しずつ音に慣れてくるのに合わせて、段階的に音量を本来の目標値にまで上げていくことが重要で、このことがまさにフィッティングの本質でもあります。
補聴器に慣れるまでのステップ
補聴器を使い始めてから、快適に使いこなせるようになるまでの基本的な流れをご紹介します。
ステップ1:家の中など、静かな場所で使う
まずは、自宅のリビングなど静かな環境で使い始めましょう。自分の足音、新聞をめくる音、水道の水が流れる音。今まで忘れていた「生活の音」が聞こえてくるはずです。最初は「うるさい」と感じるかもしれませんが、それは耳がしっかり働いている証拠です。少しずつ耳に馴染ませていきましょう。
ステップ2:少しずつ使用時間を延ばす
最初は1日1〜2時間からで構いません。疲れたら外しても大丈夫です。「今日は午前中だけつけてみよう」「明日はお昼寝の時間以外はずっとつけてみよう」と、徐々に体の一部として馴染ませていきます。
ステップ3:静かな場所での会話を試す
家の中で、ご家族との会話を試してみましょう。相手の表情を見ながら、落ち着いて話すのがコツです。
ステップ4:外の環境へ出かけてみる
家の中の音に慣れてきたら、お散歩や静かな公園、スーパーへのお買い物など、少しずつ賑やかな場所へ出かけてみましょう。外にはたくさんの音があふれています。どんな音が気になったか、どんな時に聞き取りにくかったかを覚えておいてください。
フィッティングの際に伝えてほしいこと
フィッティングを成功させるために大切なことは、補聴器を使った時の皆さんの「実感」を認定補聴器技能者に詳しく伝えることです。
補聴器の設定数値だけではわからない感覚的な部分を、ぜひ伝えてください。言葉にするのが難しければ、こんな風に伝えていただくだけで大丈夫です。
- 「自分の声がトンネルの中にいるように響く」
- 「台所で洗い物をしているとき、お皿の音がカチャカチャ響いて痛い」
- 「テレビの音はいいけれど、隣の部屋の換気扇の音が気になる」
- 「女性の高い声が、少しキンキンして聞こえる」
これらのような使用者ご自身の具体的な感覚を参考に、補聴器の測定データとの比較を行いながら調整作業を繰り返すことで、少しずつ聞こえの目標値に近づけていき、最終的に皆さんの生活になくてはならないものに仕上げていきます。
根気よく、ゆっくりと
補聴器に慣れるまでの期間は、早い人で1か月、ゆっくりな人では3か月以上かかります。「なかなか思ったような聞こえにならないけど大丈夫だろうか・・・」と焦る必要はありません。
長年静かだった世界に、再び音が戻ってくるのです。脳がその音を「必要な情報」として受け入れ、仕分けできるようになるまでには、どうしても時間がかかるものなのです。
できるだけ補聴器の使用時間を長くしていき、適切なサポートを受けながら、焦らず、一歩ずつ進んでいきましょう。
まとめ
フィッティングは、いわば補聴器に「命」を吹き込む作業です。自分の耳に馴染んでいく感覚を楽しみながら、何度か調整を重ねていくことで、補聴器は本当の意味で皆さんの生活の一部になっていきます。時間をかけながらゆっくりと理想の聞こえに近づけていきましょう。
次回のコラム(Vol.4)では、手に入れた大切な補聴器を長く適切に使い続けるための「本当のメンテナンス」についてお話しします。メンテナンスとは毎日のお手入れだけではありません。変化するあなたの耳に合わせて、補聴器を「再調整」していくことの重要性について、詳しく解説します。ぜひ続けてご覧ください。
※公開までしばらくお待ちください※







